摩周湖を望む弟子屈の丘
LAND × HOKKAIDO

弟子屈で3万坪の土地を買いました。

登記簿には、約10万平方メートルと書いてある。

3万坪という数字を口にするとき、自分でも少し現実感がない。東京ドームの2倍強。渋谷区全体の約10分の1。そういう比較を持ち出しても、実際にその土地の端から端まで歩かないと、規模は体に入ってこない。

弟子屈に初めて来たのは3年前の夏だった。知人の紹介で、阿寒摩周国立公園の外縁部にある原野を見に行った。舗装路を外れて、細い砂利道を10分ほど走ると、景色が急に開ける。見渡す限り、何もない。林と、草と、空だけがある。

霧、と熊、と、静寂

弟子屈町は人口6,500人ほどの小さな町だ。摩周湖、屈斜路湖、硫黄山。それから、ヒグマ。地元の人たちは熊の話を日常会話でする。「この前また出た」という話が、天気の話と同じトーンで出てくる。

摩周湖は霧の湖として知られている。日本一透明度が高い湖で、カルデラ湖だから岸辺に降りることができない。展望台からしか見えないのに、それでも何度でも来たくなる場所だ。霧が晴れた瞬間の、あの静かな青は、写真では伝わらない。

霧と熊と静寂。それが、この土地を買った理由の、正直なところの半分だ。

土地を買うとき、数字だけで判断する人もいる。坪単価、利回り、出口戦略。それは正しい思考だし、僕も計算はした。でも最終的に判断を決めたのは、その土地に立ったときに「ここに戻ってきたい」と感じたかどうかだった。

弟子屈は、戻ってきたくなる場所だった。

3万坪に何を作るか

総面積3万坪(約10万㎡)のうち、用途を明確に決めているのは今のところ2エリアだ。

TAPKOP(タプコプ)は約9,000坪。ここがSOLUNAの北海道フラッグシップになる。タプコプというのはアイヌ語で「突き出した丘」という意味で、敷地内に小高い丘が実際にある。建築はPAN-PROJECTSとVUILに依頼した。ガラスと木と石を使ったヴィラが8棟、専属シェフが常駐し、温泉と柔術のDOJOと音楽スタジオを備える予定だ。完全プライベートのリゾートで、共同オーナーだけが使える場所にする。

もう一方が熊牛ベース(KUMAUSHI BASE)で、こちらは約4,000坪。プール、サウナ、バー、そして本格的なBJJドージョーを作る。柔術の合宿や、リトリートのプログラムに使う構想だ。熊牛という地名は、アイヌ語の「クマウシ」(熊がよく来るところ)に由来する。

残りの1万7,000坪は、今のところ手をつけない。森のままにしておく。

なぜ「全部使う」にしないのか

3万坪あれば、もっと大規模な開発もできる。宿泊棟を30棟建てて、商業施設を作って、駐車場を整備して——そういう発想でいけば、土地の利用効率は上がる。でも、それをしないと決めている。

弟子屈の価値は「何もないこと」にある。夜に外に出ると、光害がないから天の川が本当によく見える。朝に起きると、鹿がそこにいる。熊の痕跡を林の中で見つける。そのスケール感は、建物を詰め込んだ瞬間に失われる。

土地のほとんどを森のままにしておくことは、贅沢な選択だ。でも、それがTAPKOPの価値の本体だと思っている。広大な自然の中に、小さく、丁寧に建てられた場所があること。それが、この土地の使い方として正しい。

広いまま、残す。それが贅沢の本体だと思っている。

弟子屈に来る前に知ってほしいこと

中標津空港から車で40分、釧路空港から1時間20分。東京から飛行機で2時間半+ドライブ。決して近くはない。でも、その遠さが機能している。

気軽に来られない距離だからこそ、来るときは「本当に来たい」という動機がある。週末にふらっと来るのではなく、数日かけて来る。そういう場所には、日常からの切断感がある。旅の質は、距離と手間に比例する部分がある。

冬は氷点下20度を下回る日がある。屈斜路湖が全面凍結して、白鳥が温泉の湧き出る湖畔に集まる。その景色を見たくて、真冬に来る人がいる。春は山菜が一斉に出てくる。夏は涼しい。秋は紅葉が信じられないほど鮮やかだ。

どの季節にも、来る理由がある。

土地を買った日のこと

契約を終えて、その夜に土地に戻った。誰もいない、暗い原野に一人で立っていた。

「ここに何かを作る」という事実が、じわじわと実感になってくる感覚があった。興奮というより、静かな確信みたいなものだった。大きな決断をしたときの、あの感じ。正しいかどうかはまだわからないけれど、間違いではないという感覚。

摩周湖の方向から風が来た。草が揺れた。遠くで鳥が鳴いた。

それだけで十分だった。

弟子屈の原野、夕暮れ
Y
濱田 優貴
Enabler Inc. CEO / 柔術青帯 / SOLUNA創業者 / 弟子屈3万坪オーナー
SOLUNA JOURNAL

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